ルーマニア北東部とモルドバ共和国の辺り、モルダヴィア地方で毎年クリスマスからキリスト教東方教会のお祭りである神現祭(1月6日)にかけて、人々が熊の毛皮を被って厄払いの儀式を行う「熊の踊り(Bear Dance)」と呼ばれるお祭りが行われます。
ルーマニアはヨーロッパで最もヒグマの生息数が多い国で、約6000頭が生息しています。現在のルーマニア人の祖先と言われるダキア人やゲトー人にとって、クマは治癒力を持つ神聖な動物でした。
冬の前に冬眠に入り春に目が覚めることで、復活や季節のサイクルを祝ったのです。
この熊祭りは約2000年前にトロトゥス渓谷で始まったと伝えられています。
しかし中世ではこうしたお祭りはキリスト教にとっては異教の儀式であったために、教会と戦うことになりました。
中世から20世紀半ばにかけてロマ(北インド系遊牧民族)の熊使いが、年末に小熊を森から連れて各家庭を回って厄払いの儀式を行いました。
熊は家や農場から悪魔を追い払い、よい1年を祝福する神聖な動物だと信じられていたからです。
ロマの「熊の踊り」では地域の家やお店を目指して複数の村を巡り、クリスマスキャロル隊のように劇や歌や踊りを披露して食べ物やお金を寄付してもらっていました。
そして年老いた熊を熱い金属板の上にのせて、熊が飛びはねることで踊らせていたのです。
ルーマニアが共産政権であった時に伝統的なものが排除されたためにこうした熊踊りも違法となりましたが、動物保護の観点からは幸いでした。
現在ではルーマニアでは熊狩りも禁止されているため本物の熊ではなく、人間が熊に扮装してパレードで街を練り歩きます。熊の踊りは20人前後のグループに分かれて行われます。
先頭には軍服のような服装に赤い帽子を被った熊使いがおり、行列を指揮します。次にその指示に従って、伝統的民族衣装に身を包んだ音楽隊が演奏をします。そして熊の扮装として両肩に赤い装飾を付けた熊の毛皮を被った人々が、
装飾を揺らしながら踊り厄払いをするのです。
ルーマニアは失業率が高く経済危機から一時はこの伝統がなくなりかけましたが、2013年からユネスコの無形文化遺産への登録を目指しているそうです。